人はなぜマラソンを走るのか(後編)

ロス五輪のヒロイン

選ばれたエリートだけでなく、普通の人でも当たり前のようにマラソンレースに出場する時代が到来した。女子のマラソン熱も高まり、1984年ロス五輪では、女子マラソンが初めて正式種目に採用されている。

その記念すべき初代のマラソン女王にはアメリカのベノイトが輝いた。当時の世界最高記録をもっていた彼女も、4カ月前に膝の手術を受けて不調が伝えられていた。その苦難を乗り越えての快挙だった。

だが、最も大きな拍手を浴びたのは、地元優勝をなし遂げたベノイトではなかった。彼女より24分も遅れてゴールに入ったスイスのアンデルセンだった。

彼女が競技場に戻ってきたとき、もはや彼女は走れる状態ではなかった。30度を越える暑さで意識がもうろうとしていた。足がふらつき、上体は大きく傾き、いつ倒れても不思議はなかった。いや、倒れないのが不思議なほどだった。

それでもアンデルセンは、からだを「く」の字に傾けながら、必死になって走ろうとした。時折観念したかのように立ち止まるのだが、再び死力をふりしぼって足を前に出し始める。

スタンドの観衆は暖かい拍手でアンデルセンを励ました。失神寸前の選手に対して大会役員は棄権を促すこともできたはずだが、完走に執念を見せるアンデルセンに理性的な忠告をしても、それは無意味だっただろう。(ページ3に続く)

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