愛と別れの恋愛博物館〔第3回〕

王室の慣例にとらわれない式

イギリス国教会の最高指導者ランシー・カンタベリー大主教の太い声が寺院のドームに響く。

「死が2人を分かつまで愛し慰め合い、病めるときも健やかなときも、貞淑を守ることを誓うか」

チャールズ皇太子とダイアナ嬢は、はっきりと「はい」と答えた。

式が進むに連れてチャールズ皇太子は目に涙を浮かべ、あわててその涙をぬぐっていた。目は赤く、緊張しているのが手に取るようにわかる。

それは、ダイアナ嬢も同じだった。

誓いの言葉を述べる際、新しい夫のことを本来なら「チャールズ・フィリップ・アーサー・ジョージ」と呼ばなければならないのに、順番を間違えて「フィリップ・チャールズ・アーサー・ジョージ」と言ってしまった。

しかし、その間違いは取るに足らないことだった。参列者が注目したのは、そのあとである。

王室の結婚式では、妻が「これからは夫に服従します」と宣誓するのがならわしになっていた。エリザベス女王ももちろん結婚式でそう誓っている。

しかし、事前にダイアナ嬢はこの宣誓をしないことを決めていた。これにはチャールズ皇太子も「結婚は上下の関係ではなく、横の関係だ」と理解を示した。

2人が先例を破ったのはこれだけではない。実は、王室の結婚式は、ウェストミンスター寺院で行なわれるのが慣例となっており、エリザベス女王もアン王女もそれに従った。しかし、2人は話し合って、セントポール寺院に決めた。こちらのほうが音響効果が圧倒的にいいというのがその理由だった。

2人は、旧来のしきたりに縛られない、自由な風を王室に吹きこもうとしていた。

チャールズ皇太子は言う。

「新しい王室を築く上で、それにふさわしい人を選んだ。この感激は忘れない」

彼はこの「素敵な少女」を見つけたときのことを思いだす。そのとき、ダイアナ嬢は16歳だった。(ページ3に続く)

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