「夫婦のあり方を考えさせてくれるドラマ」マイ・ディア・ミスター名作物語6

 

ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』の主人公ドンフン(イ・ソンギュン)は、誰もが羨むほど完璧な男だが、妻の不貞によって違った一面が見えるようになる。本作は夫婦のあり方についても考えさせられる良作だ。

写真=韓国tvN『私のおじさん』公式サイトより




視聴者の解釈に委ねられる結末

『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は、『シグナル』『ミセン-未生-』のキム・ウォンソク監督と『また!?オ・ヘヨン~僕が愛した未来(ジカン)~』のパク・ヘヨン脚本家がタッグを組んだ2018年の大ヒット作。
不毛な人生を懸命に生きている若い女性が同じ会社で働く寡黙な上司と出会ったことで心が癒されていく感動のヒーリングストーリーだ。
このドラマの男性主人公ドンフン(イ・ソンギュン)は、会社では理想の上司、三兄弟の中では唯一の出世頭、母親にとっては自慢の息子だ。欠点のないところが欠点なのではと思うほどドンフンは完璧な男である。
ジアン(IU)の生い立ちにも同情し、公私共に陰ながら支援する姿は、まさしく理想の上司でしかない。
よくテレビ番組等で「芸能人で例えると理想の上司は誰ですか?」というお決まりの質問がある。もし、自分にそんな質問が与えられる機会があったとしたら声を大にして「マイ・ディア・ミスターの主人公パク・ドンフンです!」と答えたい。




ドンフンとユニ(イ・ジア)の夫婦関係について触れる前に、再度これだけは言わせていただきたい。
私はジアンや後渓(フゲ)の仲間たちと同じくらいドンフンが好きだ。心から尊敬するし、本当に好きなのだ。しかし、妻ユニの立場に立った時、ドンフンに100%ゾッコンだった気持ちがほんの少し下降してしまう。
もちろん、ラストには100%越えの快進撃が待っているのだが、妻としてのユニの気持ちに少々同情してしまうのも正直なところだ。しかし、当然ながら不倫を肯定する気持ちはない。
ドンフンの妻ユニは、知性と教養を兼ね備えた有能弁護士ではあるものの、どこかに空虚感を漂わせた女性。その空虚感の根源はドンフンとの見えない溝にあるのだが、それを埋める為こともあろうに夫が最も嫌う相手ト・ジュニョン(キム・ヨンミン)と不倫関係を持ってしまう。
しかし、ジュニョンの本心を知り失望するユニ。さらにドンフンが不倫の事実を知っていたことを知ると罪悪感に苛まれ嗚咽する。土下座をして謝罪したユニに対し、ドンフンが初めて怒りを露わにしたシーンには息を飲んだ。




前述したように不倫は肯定できない。だが、ユニの寂しさや空虚感の原因はドンフンにある。常に実家や友人を優先するドンフンのユニに対する「無関心」が彼女の心に大きな溝を作ってしまった。
夫婦間においてこれほどまでの無関心は、ある意味裏切りに近い。傍から見れば完璧なドンフンもそこには気付くことができなかった。自分だけが我慢すればいいという性分がいつの間にか沁みついてしまったドンフンは、不倫の事実を知りながら何事もなかったかのように済ませようとした。
「知らなかったことにする」という行為はユニへの愛情だったのかもしれない。だが、見方によっては、ドンフン自身が傷つきたくないという自己愛だったのではないだろうか。かつて「知らなければ事実にならない」ということを言っていたドンフン。何度も話を切り出そうとしたユニを意識的に避けてきたドンフンの行動からもそれは容易に読み取れる。
結果的によかれと思ってしたそれらの行動がかえってユニを傷つけることになってしまう。いつの間にか仮面夫婦になっていたドンフンとユニ。そんな2人を窮地から救ったのがジアンだったというのもまたこのドラマの秀逸さの一端である。完璧な男だと思っていたドンフンも夫婦関係においてはそうではなかった。それがまた人間らしくていいともいえる。後渓(フゲ)の仲間たちに完璧さは必要ないのだ。




結局のところ、ドンフンとユニは似たもの夫婦だったのだろう。一方、サンフン(パク・ホサン)とエリョン(チョン・ヨンジュ)の夫婦は別居しているものの言いたいことを言い合える夫婦としてドンフン夫婦とは対称的に描かれているのも面白い。
終盤でユニはドンフンのこれまでの辛さを知ることになる。そして、彼女なりの答えを出すのだが、それは視聴者の解釈に委ねられる結末となった。夫婦のあり方に正解などないのだが『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は夫婦のあり方についても考えさせられる良作なのである。

文=朋 道佳(とも みちか)

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