あの日のヒョンビン/第5回・主役の義務

 

20代の頃のヒョンビンが主演した『アイルランド』(2004年)と『彼らが生きる世界』(2008年)は、似たところが多いドラマだ。共にイン・ジョンオクとノ・ヒギョンという多くのマニアを持っているカリスマ脚本家の作品で、繊細な感情と洗練されたセンスが作品を覆っている。2本とも視聴率は低かったが、名作ドラマとして有名だ。




ヒョンビンの役割

『アイルランド』で俳優としての存在感を認められたヒョンビンは、『彼らが生きる世界』によって名実共に主演俳優としての重みを備えた。
この『彼らが生きる世界』でヒョンビンの相手役を演じたソン・へギョは、長い演技経験にもかかわらず、いつも女優として賛否が分かれる。彼女の演技力は『彼らが生きる世界』でも問題になった(ソン・ヘギョは2016年に『太陽の末裔』で高い評価を得たが、2008年当時は批判されることが多い女優であった)。
それに比べて、ヒョンビンの演技は始めから好評だった。しかし、それはヒョンビン個人への好評であって、ドラマ全体への評価ではなかった。彼にはまだ主役としてドラマを導いていく力は見られなかった。
主役の義務は自分が担ったキャラクターをドラマのリード役にすることだ。相手役だけではなく、主人公と関係を持っているすべてのキャラクターを導かなければならない。しかも、相手の俳優が十分な働きを果たしていない場合にはそれをカバーしなければならない。




この点で、『彼らが生きる世界』のヒョンビンは、前半部分で責務を十分に果たしたとはいえなかった。彼にはまだ戸惑いがあるように思えた。しかし、中盤以降にヒョンビンの演技は見違えるようになり、彼が劇中での存在感を拡大していくにつれて、ソン・へギョの演技もよくなった。
ヒョンビンとソン・ヘギョは、劇中ではテレビ局のドラマ監督と作家で、さらに恋人同士の役を演じた。一見華麗に見えるが、2人とも深い心の傷を負っていて、その傷によって互いにコンプレックスを感じていた。
実際、立体的なキャラクターが交差する繊細で複雑なドラマだった。その主役を担うには、短時間の準備や並みの演技力では難しい。ヒョンビンにはそれを演じられるだけの能力が備えられていたが、ソン・へギョはまだそこに至らなかった。
当然、放送して間もないときは2人の息が合わず、見ている人もハラハラしていた。しかし、徐々に2人の関係が完成されていったのには、ヒョンビンの力が大きかった。もちろん、ソン・へギョも努力しただろうが、ヒョンビンの演技が彼女に集中できる機会とエネルギーを与えたのである。
(次回に続く)

文=朴敏祐(パク・ミヌ)+「ヨブル」編集部

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