東京の地上波のテレビ局を見ると、公共放送がNHKだけで、民間放送は日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京である。圧倒的に民間放送が多くなっている。これがソウルならどうなるか。
MBCの成り立ち
ソウルの地上波のテレビ局はKBS、MBC、SBSの3つだが、純然たる民間放送はSBSだけとなっている。
KBSはNHKと同様の公共放送で、MBCは政府が出資して民間で運営するという半官半民のテレビ局である。つまり、ソウルでは、公共放送1、半官半民放送局1、民間放送1という割合になっている。
不思議なのはMBCである。
どうして半官半民になったのか。
MBCは最初は釜山(プサン)を拠点にした民間放送局だったのだが、軍事政権時代に強制的に政府に取り込まれてしまった。後に民営化されたとはいえ、株式の大半をいまだに国営の公益財団が保有している。
韓国に住んでいる人ですら、MBCが実は民間放送局でないことを知らない人が多い。株式会社で広告収入を得て経営が行なわれているのだが、法律的には公営に該当するのである。
そのために、重要な経営案件に政府の意向が働くことがある。これによって様々な問題が生じることも少なくない。
公共放送のKBSは、NHKと同じように地上波のチャンネルを2つ持っている。しかし、中身はNHKとかなり違う。
どう違うかというと、NHKは総合テレビと教育用テレビという具合に放送内容にかなり違いがあるのに対して、KBSの場合は、KBS1とKBS2に放送内容の違いはあまりない。似たような番組を同じように放送している。
しかし、放送形態には根本的な違いがある。なんと、KBS2は公共放送でありながら、CMを流しているのだ。
つまり、主に受信料だけで運営しているNHKと違って、KBSは受信料と広告費で運営されている。
なぜこのようなことになったのか。
1970年代には韓国にも東洋放送(TBC)という民間のテレビ局があったのだが、やはり軍事政権によって1980年にKBSに吸収されてしまった。
いわば、公共放送と民間放送が吸収合併する形になり、民間のCM放送が公共放送に入り込むことになった。
このように、韓国のテレビ局の成り立ちには、軍事政権時代の陰が色濃く残っていると言える。
KBSの受信料はNHKと比べるとはるかに安いのだが、その徴収方法が独特である。なんと、電気代と一緒に取られてしまうのだ。
「エッ?」と思った人も多いのではないだろうか。「なんと強引なことだ」とあきれる人もいるかもしれない。
日本では驚かれるが、実際にKBSの受信料は電気料金に自動的にプラスされて請求される。
そのおかげで、徴収率は99%を超える。受信料不払い運動に悩むNHKから見れば、本当にうらやましい話だろう。
しかし、テレビを持っていない家庭もゼロではない。それなのに勝手にKBSの受信料を取られたら、たまったものではない。
この場合は韓国電力に直接申し込んで、電気料金の請求書からKBSの受信料を引いてもらうのである。
100%近い割合で受信料を徴収できて、広告収入まで入ってくる韓国のKBS。良質の番組を放送しなければ視聴者も納得しないだろう。
文=康 熙奉(カン ヒボン)