運命の一目惚れ
グレースたちの一行は指定された時間どおりにモナコ王宮に到着した。しかし、肝心のレーニエ大公は先約が延びてしまい、なかなか現れなかった。グレースたちは、王宮を見物しながらレーニエ大公の登場を待ったが、3時45分になるとさすがにグレースも苛立ちを抑えきれなくなった。
「なんて失礼なんでしょう。私、もう帰りますよ」
グレースが声を荒らげたときだった。衛兵がレーニエ大公の登場を告げ、主役が颯爽とグレースの前に現れた。
「遅くなってしまって、申し訳ありません」
そう言って、レーニエ大公が手を差しだすと、グレースはその手を取り、軽く膝を折って会釈した。
レーニエ大公の謝罪の言葉にグレースは感激した。苛立ってしまった自分が恥ずかしくなると同時に、物腰がやわらかくて率直なレーニエ大公の魅力に一目でまいってしまった。それは、レーニエ大公も同じだった。彼は、それまでに数多くの女優と会ってきたが、グレースほど美貌と気品を兼ね備えた女性はいなかった。
「王妃にするなら、これほどふさわしい女性はいない」
初めて会った瞬間に求婚したくなるほど、レーニエ大公はグレースに一目惚れした。
王宮の庭園を散歩する2人は、他の者の存在を忘れてしまっているかのように、自分たちだけの世界に入りこんでいた。
しかし、レセプションの時間が迫っていた。グレースは、おとぎ話の世界から現実の世界に再び戻らなければならなかった。
レーニエ大公が別れ際に言った。
「近い将来、アメリカに行くつもりです。ぜひ、そのときに会いたいですね」
「その日が早く来ることを願っていますわ」
そう言って、グレースは王宮を辞去した。カンヌへ向かう車の中で、ギャラントはグレースにレーニエ大公の印象を尋ねた。グレースは頬を紅潮させながら答えた。
「本当に、本当に魅力的な方ね」(ページ4に続く)