無情の米びつ
英祖が怒鳴った。
「映嬪(ヨンビン)が余になんと言ったと思うのか? 世子はふさわしくないと訴えてきたのだ。お前が自決しないかぎり、この国が駄目になってしまう」
この言葉を聞いて、イ・ソンは震えがとまらなかった。英祖が名を出した「映嬪」というのは、英祖の側室でイ・ソンの生母だ。
イ・ソンは、もはや、生母からも見捨てられたのだ。
高官の1人が進み出たきて言った。
「殿下は、王宮の奥にいる女性の言葉によって、後継者問題を決めるのですか?」
この言葉は火に油を注いだ。
英祖はさらに激昂し、息子に再度の自決を迫った。
しかし、イ・ソンは震えるばかりで何もできなかった。
すると、英祖は米びつを持ってこさせて、その中にイ・ソンを閉じ込めた。
かくして、朝鮮王朝の世子が水と食べ物を与えられないまま米びつで餓死したのである。果たして、これ以上の悲劇があろうか。
文=康 熙奉(カン ヒボン)