愛と別れの恋愛博物館〔第3回〕

チャールズ皇太子とダイアナ妃/全世界7億5千万人が見たロイヤル・キス

daiya

ロンドンが最も熱狂した日

その日はまるで中世の祭日にタイムスリップしたような1日だった。

1981年7月29日、午前10時半。海軍中佐の礼装に身を固めたチャールズ皇太子が、4頭だての馬車でバッキンガム宮殿を出発した。チャールズ皇太子はしきりと鼻をこすっていた。緊張したときのいつもの癖だ。

それから5分後。父親のスペンサー伯爵に連れ添われたダイアナ嬢が、バッキンガム宮殿そばのクラレンス宮から、ガラス製の馬車に乗ってチャールズ皇太子のあとを追った。レースのベールをまとったダイアナ嬢は、長い眠りから覚めた“森の美女”のように美しかった。

沿道の100万人の大観衆は、大小さまざまなユニオン・ジャックを振りかざし、長年の夢が現実になった喜びに酔いしれていた。

誰もが熱狂していた。冷静だったのは国鉄だけかもしれない。膨大な赤字に悩んでいた国鉄は、その赤字の解消策にロイヤル・ウェディングを利用した。というのは、セントポール寺院近くのガード上に特別遊覧席を設けて、1席150ポンド(約11万円)という法外な値段で売り出していたのである。もちろん超満員。国鉄にはうれしいプレミアがついた。

午前11時、外国王族、元首など3000人が見守る中、セントポール寺院で式は始まった。ダイアナ嬢のウェディングドレスはアイボリー・ホワイトのシルクのタフタ。後ろに垂れた裾は実に8メートルもあった。デザイナーのエマニエル夫妻が「おとぎ話の王女さまに見えるように」と工夫した傑作だ。(ページ2に続く)

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