秋風に吹かれて思い出す、幼なじみの男の子

 

今年の紅白歌合戦のテーマ「Colorful~カラフル~」には多様な価値観を認め合おうという思いも込められているそうだ。40年以上前の話になるが、幼なじみにTくんという男の子がいた。Tくんは女兄弟の中で育ったからかとても女の子チックな男の子だった。




多様な価値観を認めてくれる時代

今年の紅白歌合戦のテーマは「Colorful~カラフル~」。コロナ禍のせいでなんとなく彩りの欠けた日常をカラフルに彩ろうという思いが込められているらしい。「Colorful~カラフル~」には多様な価値観を認め合おうという思いも込められているそうだ。紅白に分かれていた司会のスタイルも変わり、番組の進行とともに「紅組」「白組」はじめ出演する全ての歌手・アーティストを応援するという。
最近では学校でも男女を分けないジェンダーレス制服が増えている風潮があり、性別記入欄も「男」「女」「どちらでもない」という形式をよく目にするようになった。多様な価値観を認め合える時代へと変わってきたのだなとつくづく感じる。
もう40年以上前の話になるが、幼なじみにTくんという男の子がいた。私たちはいつも一緒にいた。Tくんは女兄弟の中で育ったからかとても女の子チックな男の子だった。男の子の遊びは一切せず、いつも私と一緒にお人形さんごっこやお店屋さんごっこをして遊んでいた。今のように各家庭にゲーム機などなかったので、毎日暗くなるまで外で遊んだものだ。




当時は女の子たちの間でしきりにゴム跳び(ゴム段)が流行っていて、私とTくんもよくゴム跳びをして遊んだ。ゴム跳びで失敗するとTくんがいつも「キャーッ」と言って恥ずかしそうにしていたことを思い出す。Tくんはとても繊細で優しい子だった。
女の子チックだったせいで私たちは本当に馬が合う大親友だった。子供だったからか、私は彼の女の子チックな振る舞いに何の違和感も覚えなかった。彼が男の子であろうと女の子であろうと、一緒に遊ぶことがひたすら楽しかったのだ。今思えば彼はトランスジェンダーだったのだろう。本当に優しくていい子だった。
小学校高学年で私が引っ越しをしてしまいTくんとは疎遠になってしまったが、大人になって一度だけ会う機会があった。その時彼の隣には素敵な男性がいた。何十年も彼を思い出すことはなかったが、先日そんなTくんの訃報が届いた。
幼い頃の親友はどんな人生を送っていたのだろう。辛くはなかったのだろうか。今のように多様な価値観を認めてくれる時代に青春時代を過ごせていたらどんなによかっただろう。どうか安らかに。秋風に吹かれるたび、私の記憶の片隅から彼が優しく語りかけてくる。

文=朋 道佳

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