小学生時代の春休みや夏休みに、父と弟と3人で映画館に行くことをとても楽しみにしていた。沢山の映画を観たが、最も怖い映画は「大魔神」だった。「大魔神」と聞くと元プロ野球の選手を思い浮かべるかもしれないが、そうではなく元祖「大魔神」のことである。
血走った目玉
8月公開の映画について「『大魔神』が55年ぶりに映画館のスクリーンに!『妖怪大戦争 ガーディアンズ』」という広告をネットで偶然見つけた。そして、恐れていた「大魔神」を思い出した。
ストーリーは戦国時代、悪人が陰謀をめぐらせ、民衆はひどく虐げられる。すると穏やかな表情の石像だった「大魔神」が復活して、破壊的な力で悪人をたおす、という時代劇である。
話は分かりやすく涙をさそい感動した。
しかし空から光の玉が石像に降りてきて、腕を顔の前で握ったその時、穏やかなハニワ顔が怒りに満ちた鬼の形相に変わり、恐ろしい魔神になった。この場面が怖くてたまらなかった。青黒い顔に血走った目玉がギョロギョロと動いて、にらみつけていた。魔人は山崩れや地割れをおこし、武士や建物を飲み込み、残酷にも踏みつぶしたりして殺していった。
最後は村人が、怒りをしずめるように涙を流し願うと、魔人は穏やかな顔に戻り、やがて土くれになって消えていった。
神が弱い村人達を救った良い話ではある。だが、魔人の顔があまりにも怖い。村人の守り神という存在であったのに、怒りにまかせてこんなに豹変し残酷になるのが、小学生の私はイヤだと思った。それにドスンドスンという足音や叫び声も恐怖であった。だから恐ろしい場面になりそうになると、目をつぶっていた記憶がある。
「妖怪大戦争 ガーディアンズ」に登場する「大魔神」は、よりたくましくスケールが大きくなっているようだ。三池監督は、「ちょっと迷惑な愛の大暴走をお楽しみに!」と明かしている。
55年経った現在の私は、怒り狂いながら破壊の限りをつくす「大魔神」の迫力が、非常に気になっている。
文=海山 文美(みやま あゆみ)
生活エッセイスト。東京生まれ。動物の編みぐるみを中心とした編み物作家として活動しながら、ライフスタイル全般を見つめ直すエッセイストとして執筆中。生活に根付いた身近な出来事を書いています。趣味は植物鑑賞、テニス、水泳。