イ・ソジンが主演して大ヒットした時代劇『イ・サン』。主役の彼は、趣味にスポーツとロッククライミングを挙げるだけあって、運動神経が抜群だった。劇中の乗馬シーンも、スタントマンなしで見事にこなした。
何でも工夫するイ・ソジン
イ・ソジンにとっては、アクションシーンもお手のものだった。無事に即位式を終えた正祖(チョンジョ)が、警戒態勢解除後の隙をついて侵入した刺客に襲われるシーンでは、自ら刀を手に取って、激しい殺陣を繰り広げた。
正祖が賊を撃退したという記録はないが、刺客に立ち向かう勇敢な王のイメージを視聴者に強く焼き付ける演技だった。
劇中の正祖は、弓の腕前も武官たちより上。文武両道を究める王のイメージは、まさにイ・ソジンの抜群の身体能力と知性あふれる演技から生まれたといえるだろう。
また、イ・ソジンは現代風の演技を『イ・サン』の中にどんどん取り入れていた。
例えば、正祖がソンヨンに書物や絵を渡すシーンが何度か登場する。イ・ソジンはそこで「ただ渡すだけでは、面白くない」と考えた。
そこで、彼は何をしたか。
なんと、物を空中で一回転させてから手渡すのである。
これにはイ・ビョンフン監督も呆れたらしいが、すべてオンエアされたという。
米国留学の経験もあるイ・ソジンだけあって、演技の中で小技を駆使する洒落た手法を取り入れている。
それは、時代劇に新しいテイストを加える効果があった。
さらに、ドラマの終盤を見て、驚いたことがある。
なんと、正祖が眼鏡をかけるシーンが登場するからだ。「風景の中に電信柱があった」とか、「腕時計をしていた」など、「時代劇あるある」話のようだが、これは史実どおりだという。
それによると、正祖は朝鮮王朝で初めて眼鏡をかけた王で、死去する1年ほど前から使ったとされている。その姿に、側近たちも驚いたらしい。病に倒れたときの正祖は48歳。年齢で考えれば、老眼鏡ということになるだろうか。
快活なイ・ソジンにとって、晩年の正祖は演技の難しい年齢層だったかもしれないが、この眼鏡シーンににじませた「老いゆく王の演技」もなかなか渋いものがあった。