浅草を気ままに歩く(後編)

影向堂のローソク

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本堂の西にある影向堂

本堂の西側にまわる。すぐ目に入るのが、元禄六年(一六九三年)に千人近い信徒によって建立されたという唐銅製の阿弥陀如来像。私にとっては、浅草でお参りする回数が二番目に多い銅像である。一番多いのは伝法院通りにある水子地蔵。母がよく参拝していたので、私もそれにならった。
今は阿弥陀如来像の前に立ち、賽銭箱に小銭を入れてから「南無阿弥陀仏」と唱える。あわてて言うと早口言葉のように口が回らないがら、心掛けてゆっくり言う。それでも、「南無阿弥陀仏」は言いにくい。「ナミュアミュダブツ」になってしまう。それでもいいと腹をくくる。
さらに西に向かうと影向堂(ようごうどう)がある。このお堂は、もともと本堂の南東にあったそうだが、浅草寺の中興の祖ともいえる慈覚大師円仁(えんにん)の生誕千二百年を記念して、現在の場所に再建されたという。
堂内の本尊は聖観世音菩薩。ここでは参拝客が火を付けたローソクを供える。なんでも、火は日照りを防ぐとか。現在なら、女日照りの人にも勧めてみようか。
母が存命のとき、私が浅草寺にお参りに行くと言うと、かならず「影向堂でローソクを供えなさい」と言われた。その教えを今も守っている。元旦にはかならず家族四人で参ってそれぞれがローソクを供える。
今日の私は一人。五十円を箱に入れて小さなローソクを一本取り、金属製の杭がたくさん付いた透明の箱の中に入れる。そこには種火となる大きなローソクがあり、そこでローソクに火を付けてから、空いている杭に差す。
いつもの手順を終えてから祈願した。こんなささいなことでも、ひと仕事やり終えた実感が沸く。
影向堂を出ると、南西方向に淡島堂(あわしまどう)がある。江戸時代から女性の守り神として信仰を集めたそうで、今でも二月八日に針供養が行われている。(ページ3に続く)

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