人はなぜマラソンを走るのか(中編)

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20世紀前半のマラソンは、苦行に堪えて長時間の猛練習をこなした選手が優位に立つという構図が続いた。いわばスタミナ勝負に終始していたわけだが、そのマラソンにスピードの重要性をもたらしたのがエミル・ザトペックだった。

優勝者は初マラソンだった

ザトペックは1952年のヘルシンキ五輪で、5000メートル、1万メートル、マラソンの長距離3冠を達成した怪物ランナーである。

彼がヘルシンキ五輪でマラソンを制したときの逸話がおもしろい。

すでに5000メートルと1万メートルを制覇したザトペックは、余勢をかってマラソンに出場してきたが、それ以前に一度もマラソンを走ったことがなかった。案の定、どんなペースで走ればいいのか皆目見当がつかない。大会前に新聞を読んでいて、目をつけたのが優勝候補のピータース(イギリス)だった。

「ピッタリと優勝候補をマークしていけばなんとかなるだろう」

レースが始まると、極端なハイペースになった。初マラソンのザトペックは面食らったが、先頭から離されるわけにもいかず無理して付いていった。10キロメートル地点を過ぎた頃、とうとうザトペックはピータースのそばに寄って「ペースが速すぎないか」と聞いてみた。

ライバルにペースを聞くとは、ザトペックも随分と天真爛漫だ。(ページ2に続く)

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