2007年に韓国で放送された時に最高視聴率38・9%を記録した『イ・サン』。あまりの人気の高さに、当初は全60話の予定を全77話まで延長したほどだった。この傑作で、主役のイ・ソジンが披露した抜群のアドリブを紹介しよう。
イ・ソジンの提案
『イ・サン』は、朝鮮王朝518年の歴史の中で特に波乱万丈な生涯を送った22代王・正祖(チョンジョ)を克明に描いたドラマだった。
それなのに、タイトルを王の尊号「正祖」でなく、本名の「イ・サン」としたのは、イ・ビョンフン監督が、「人間としての正祖を描きたかった」という理由からだ。
そのイ・サンに扮したイ・ソジン。このドラマが大成功したのも、イ・ソジンの演技力の賜物であった。
なによりも、イ・ビョンフン監督が正祖の役にイ・ソジンを抜擢した理由は、彼の持つ多彩な表現力なら正祖の人生をイメージ豊かに甦らせることができると考えたからだ。その予想は見事に的中したが、撮影中、イ・ビョンフン監督もビックリするほどのアドリブをイ・ソジンが見せている。
今回はその詳細を紹介しよう。
まずは、幼なじみの親友パク・テス(イ・ジョンス)が武科の試験に合格し、それを正祖が祝福するシーンだ。
イ・ソジンは「自然なアドリブを入れていいですか」とイ・ビョンフン監督に尋ねた。監督は、不安を覚えながらも承諾した。
すかさず、パク・テスに向かって振り返ったイ・ソジンは、なんと、そこでパク・テスに「ウインク!」をしたのである。
夕刻で撮り直しもできず、編集でカットを命じたイ・ビョンフン監督だが、そのシーンを見た編集担当者に「これは本当に面白いですよ」と言われ、そのまま放送することになった。
ネットでも話題になり、好意的な反応が多かった。
この話には続きがある。
正祖は後に親友のソンヨン(ハン・ジミン)を側室に迎えるのだが、祝いの式の際、宮殿の回廊で出会った両人がお辞儀をするシーンで、イ・ソジンがまたまた「ウインク!」をしたのである。
これを見たソンヨンはクスクス笑い出してしまった。
イ・ビョンフン監督は「NG!」と叫び、イ・ソジンをきつく叱った。さすがに「厳粛な祝いの式でウインクはまずい」と判断したのだ。
ところが、編集室で見てみると、台本通りの演技より、ウインクしたNGシーンの方が2人ともイキイキしていた。
結局、またウインクシーンがオンエアされた。
まさか、朝鮮王朝時代にウインクはなかっただろうが、人なつっこい正祖のイメージをこの仕草だけで一発で表現したのはさすが。イ・ソジンの巧みな表現力が、時代劇の常識を打ち破ったシーンだった。
構成=「ヨブル」編集部