それぞれの幸せ/誰かが読んでくれる物語2

 

その年賀状を見るのは毎年苦痛だった。家族写真を載せており、これ以上はないという感じの家族がそこに写っていた。ひるがえって、私はどうなのか。様々な思いが元旦から頭の中をめぐっていた。




順調だったはずがなぜ?

高校時代の友人は、短大を卒業してから銀行に勤め、3年ほどで職場結婚をして退職した。いわゆる寿結婚だった。
以後は、毎年、幸せを絵に描いたような写真を年賀状に載せてきた。
子供が2人生まれ、順調に育ち、夫は銀行で出世街道をひた走った。
やがて息子は著名な大学を卒業して大企業に就職し、娘は大学在学中に休学してアメリカに留学した。
そうした話を毎年のように年賀状に書いてきた。リゾートや海外旅行で撮った家族写真をかならず一緒に掲載して……。
高校時代は目立たない人だった。
「私より地味で成績も良くなかったのに」
そう思うと、よけいに複雑な気持ちになった。
それは、自分の境遇を考えてしまうからだ。




すべてが順風満帆だった。本当に素敵な男性と結婚し、自分も幸せな生活を送っていたはずだった……。
しかし、現実はまるで違う。優しいと思えた夫は、やがて独りよがりの考えに固執するようになり、夫婦喧嘩が絶えなくなった。酒とギャンブルで借金を作った夫との離婚は、どうしても避けられなかった。
歯車が狂った。一人住まいで、もともと子供もいなかった。
40代後半を迎えてスーパーのパートで糊口をしのぐ生活が続く。
そんな時に送られてくる毎年の年賀状。
「私たちのような幸せな家族って、他にいる?」
写真の中の友人がそう言っているように聞こえた。
悶々とした日々。かなえられなかった自分の幸せ……。
しかし、一つの出会いが気分を変えてくれた。
職場に中途で入ってきた男性に好意をもたれ、やがて正式に付き合うようになった。
朴訥(ぼくとつ)で地味な人なのだが、誠実で地に足をつけている。




50歳になってもまだ未婚だった彼から求婚された。
「ぜひ一緒に新しい生活を始めませんか」
そう言われたとき、たまらない幸福感を感じた。
若い時なら見向きもしなかった男性かもしれないが、今なら「誠実こそ一番」と思えるようになった。
もう、友人の年賀状を見ても、羨ましいと思わなくなった。
人の幸せは、それぞれの形があっていい。
むしろ、自分でつかみとった幸せが誇らしい。
今は素直にそう思える。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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