オレンジ色に輝く太陽とステキな思い出

 

9月7日富士山の初冠雪が発表された。標高3776mと日本最高峰の優雅な姿は日本の象徴であり、2013年には世界文化遺産に登録されている。私には、OL時代に会社の人達と富士山頂からのご来光を見ようと登山をした思い出がある。




みんなで食べた冷たいキューリ

富士山五号目で昼食を終えてから、吉田ルートで頂上をめざす。高山病にならないようにゆっくりと歩き、六号目までは楽しかった。
七号目辺りで疲れてきたが、登山道と下山道が別なので登る人しかいない。リタイアしたくてもポンプで押し出されるように上へ行くしかない。葛飾北斎の「赤富士」やテレビで見る「ダイアモンド富士」はあんなに美しいのに、登ってみたら岩だらけの道をひたすら歩き、見えるのは人の列だけだ。何のために登っているのだろう……。
八合目では疲れと喉の渇きでクタクタになり、おにぎりも食べたくない。
登山が趣味の課長さんが自家栽培のキューリを人数分持ってきていて、みんなに分けてポリポリ食べた。水分たっぷりで美味しいキューリはどんどんエネルギーをくれた。
登山の知識と12本の重いキューリをみんなのために持参した心づかいに、感謝と尊敬だ。
山小屋で仮眠した後、皆に励まされながら真っ暗で寒い道をひたすら登る。




そして頂上、ご来光の時が迫る。空は下の方からうっすら赤くなり、地平線の彼方から朝日が見えるとオレンジ色の光が広がった。ついに日本一の山から壮厳な日の出を見たのだ。
空をながめ感激にひたっている12名の晴れやかな表情は、集合写真に残っている。太陽の力は本当にすごい。
一直線に下る「砂走り」で下山すると顔や服、髪の毛と口の中までジャリジャリだが、ご来光のパワーの感激で元気だ。
そして、温泉で汗と砂利をすっかり流し無事を祝ってカンパイした。
あの燃えるようなオレンジ色の空。そして、冷たいキューリの味とみんなの優しさ。神秘的な富士山に登った思い出は、ステキな記憶として今も残っている。

文=海山 文美(みやま あゆみ)
生活エッセイスト。東京生まれ。動物の編みぐるみを中心とした編み物作家として活動しながら、ライフスタイル全般を見つめ直すエッセイストとして執筆中。生活に根付いた身近な出来事を書いています。趣味は植物鑑賞、テニス、水泳。
写真=海山 文美夫(みやま ふみお)

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